
「周りの子はもうおしゃべりしているのに、うちの子はまだ…」——そう感じたときに読む、エビデンスに基づく実践ガイド。
目次
はじめに:個人差は大きい、それでも「見逃さない」視点を
1〜3歳の「めやす」と“赤信号・黄信号”
よくある誤解をアップデート
家庭でできる“ことばの土台づくり”10選(科学的根拠つき)
迷ったら使える「赤信号チェック」※1つでも当てはまれば相談を
スクリーンタイムQ&A(1〜3歳)
ケース別ヒント
発達の最新トピックを踏まえて
まとめ:いちばん効くのは「毎日の小さな対話」
参考にした主なガイドライン・論文(抜粋)
はじめに:個人差は大きい、それでも「見逃さない」視点を
乳幼児の言葉の発達には大きな個人差があります。一方で、早期の気づきと相談は、その後のコミュニケーション発達を助ける強力な後押しになります。日本では1歳6か月健診と3歳児健診が法定健診として位置づけられ、ことばの相談が上位に挙がります(母子保健法に基づく制度)。(Japan SLHT)
本記事は、1〜3歳で「見落としがちなサイン」と、今日から家庭でできる支援、そしてどのタイミングでどこに相談すべきかを、最新の知見に基づいて解説します。
1〜3歳の「めやす」と“赤信号・黄信号”
用語ミニ解説
- 表出言語:自分から発する言葉(発語)のこと。
- 受容言語:聞いて理解する力のこと。発語より先に伸びることが多い。
- ジェスチャー:指差し・バイバイ・見せる・渡すなど、言葉の前段階のサイン。言語の強い予測因子です。(Frontiers)
1歳ごろ(〜1歳6か月)
- めやす:意味のある単語が出はじめる/大人の指示が一部わかる/指差しや「見せる」「渡す」などのジェスチャーが増える。(サイエンスダイレクト)
- 黄信号:喃語や身振りが少ない、共同注意(親と同じものを見る)が続きにくい。(Frontiers)
- 赤信号:指差しがほぼ出ない・名前を呼んでも反応が弱い・ジェスチャーが乏しい。自閉スペクトラム症(ASD)の早期徴候として知られます。(疾病対策センター)
1歳6か月ごろ
- めやす:意味のあることばが10語前後/身近な名詞の理解/身振り+声で要求ができる。(疾病対策センター)
- 赤信号:意味のあることばが出ていない、またはジェスチャーが乏しい。ASDや言語発達の遅れのサインになり得ます。(疾病対策センター)
2歳ごろ(〜2歳半)
- めやす:二語文(「ママ きて」「もっと ちょうだい」)/語彙が増える。(疾病対策センター)
- 赤信号:二語文が出ない、言葉の数が増えない、言葉や社会的スキルの退行(できていたことが減る)。退行はいつの年齢でも要相談です。(疾病対策センター)
3歳ごろ
- めやす:簡単な文で会話/身近でない人にもおおむね伝わる明瞭度。
- 赤信号:単語中心で会話がつながらない、指示理解が乏しい、相互のやり取りが続かない——などは評価対象。(AAFP)
ポイント:ジェスチャーの少なさ、二語文の未出、退行は「相談のタイミング」。耳の聞こえ(滲出性中耳炎=グルーイヤー)も見逃しやすい原因です。(NICE)
よくある誤解をアップデート
- 「二言語環境だから遅れている」は誤り
複数言語の曝露が遅れの原因になるわけではありません。総語彙(両言語の合計)は同年齢の単一言語児と同程度が目安です。(HealthyChildren.org) - 「そのうち話す」は半分正しく半分危険
個人差はありますが、赤信号があれば待ちすぎない。早期の評価と支援はことば以外の社会的コミュニケーションにも好影響を及ぼします。(AAFP) - 画面(スクリーン)を“ことばの先生”にしない
1歳ではスクリーン視聴は推奨されず、2歳でも1時間以内が推奨(WHO)。18〜24か月で導入する場合は保護者と一緒に高品質な内容を(AAP)。(世界保健機関)
家庭でできる“ことばの土台づくり”10選(科学的根拠つき)
- “双方向”を増やす:子の関心に合わせてことばを添える(追いかけ語り)。親の応答性を高める介入は、子のコミュニケーションを促します。(PMC)
- ジェスチャーを育てる:見せる/渡す/指差す遊びを日常に。ジェスチャーは後の語彙の予測因子。(PMC)
- 対話的読み聞かせ(ダイアロジック・リーディング):絵本で質問→待つ→褒める。語彙・文の長さの向上が示されています。(CentAUR)
- ルーティンにことば:着替え・食事・お風呂に短いフレーズを固定して繰り返す(「ぬぐよ」「あわあわ」)。
- “選ばせる”を増やす:「りんご?バナナ?」と二択で意思表示の機会を増やす。
- 指示は短く具体的に:「あっち行かないで」より「とまって」「ここ」。
- オウム返しで広げる:子の発話を繰り返し、1語足す(子「ブーブー」→親「赤いブーブー」)。
- スクリーンは“共視聴”:見るなら一緒に話しかけながら。受け身視聴は避ける。(AAP Publications)
- 耳のサインに敏感に:呼んでも振り向かない・中耳炎を繰り返すときは耳鼻科へ。(NICE)
- 家庭の言語を守る:親が一番得意で情緒的に語れる言語で話すことが、結局いちばん豊かなインプット。(HealthyChildren.org)
※読み聞かせ介入は親の関わり方の質を改善する効果が明確ですが、子の言語スコアの伸びは手法や比較条件で差があります。焦らず日々の対話の量と質を積み上げましょう。(ASHA Publications)
「いつ・どこに」相談する?(日本の動線)
- まずは健診で:1歳6か月・3歳児健診は支援の入り口。気になる点は必ず伝える。必要に応じてフォローや専門職につながります。(Japan SLHT)
- 耳鼻科(聴力):滲出性中耳炎(グルーイヤー)は難聴→言葉の遅れの一因。治療や経過観察の指針があります。(NICE)
- 言語聴覚士(ST)・療育:評価と親子への働きかけ(親の応答性・ジェスチャー促しなど)。親実施型プログラムの科学的検討も進んでいます。(PMC)
- 小児科:全体発達の見立て、ASDなどのスクリーニング、必要に応じ専門へ紹介。気になったら月齢を問わず相談OK。(AAFP)
迷ったら使える「赤信号チェック」※1つでも当てはまれば相談を
- 1歳6か月:意味のあることばが出ていない/指差しがほぼない。(疾病対策センター)
- 2歳:二語文が出ない。(疾病対策センター)
- いつでも:言葉や社会性の退行(できていた発語・ジェスチャーを失う)。(Autism Speaks)
- いつでも:聞こえの不安(呼んでも反応が弱い、中耳炎の反復)。(NICE)
スクリーンタイムQ&A(1〜3歳)
- Q:1歳でも教育動画ならOK?
A:基本は非推奨。どうしてもならビデオ通話程度に(18〜24か月以降は共視聴で質重視)。(AAP Publications) - Q:2歳になったらどれくらい?
A:WHOは1時間以内を推奨(少ない方が良い)。見るなら親子の対話を伴う視聴に。(世界保健機関)
ケース別ヒント
- 人前で話さないタイプ:家では話す→選択肢提示・小さな成功体験を積み、外でも伝えられる道具(指差しカードなど)を使う。
- 単語は多いが会話が続かない:相互やり取りのゲーム(順番こ、おままごと)で“会話の型”を体験。
- 多言語家庭:家庭言語を削らない。総語彙・理解は両言語合算で評価し、両言語での困りがあれば相談。(HealthyChildren.org)
発達の最新トピックを踏まえて
- CDCの発達マイルストーンは近年改訂され、「24か月で二語文」など、より保護者が“気づきやすい”指標が示されています(※米国資料。日本では健診や相談体制を活用)。(疾病対策センター)
- 親実施型介入は、親の応答性やジェスチャー支援など関わりの質を改善し、特定の子ども群で効果が高まる可能性が示唆。研究は進行中です。(PMC)
まとめ:いちばん効くのは「毎日の小さな対話」
- 指差し・ジェスチャーはことばへの架け橋。
- 二語文の未出(2歳)・退行・聞こえの不安は躊躇せず相談。
- 読み聞かせ+日常のルーティン語+親の応答性で“双方向の会話”を増やす。
- 日本の1歳6か月・3歳児健診は支援の入り口。気がかりは遠慮なく伝える。(Japan SLHT)
「そのうち」は、専門家と一緒に確かめながら。今日できる一歩(指差しを待つ、選択肢で聞く、共視聴で語りかける)を積み上げれば、ことばの道は確かに拓けます。
参考にした主なガイドライン・論文(抜粋)
- CDC「発達マイルストーン(Learn the Signs. Act Early.)」(疾病対策センター)
- AAP(米小児科学会)幼児とデジタルメディア活用の勧告(18〜24か月は共視聴で質重視)(AAP Publications)
- WHO「5歳未満の身体活動・座位行動・睡眠ガイドライン」(2歳はスクリーン1時間以内)(世界保健機関)
- NICE「滲出性中耳炎(グルーイヤー)診療ガイドライン」(NICE)
- AAFP「小児の言語発達遅滞の評価と紹介」(AAFP)
- 日本言語聴覚士協会「乳幼児健診入門ガイド」(健診の意義と流れ)(Japan SLHT)
- ジェスチャーと言語発達の関連研究(レビュー・縦断研究)(Frontiers)
※この記事は医療的診断ではありません。お子さんの様子に不安がある場合は、迷わずお住まいの自治体の健診・発達相談、小児科・耳鼻科、言語聴覚士にご相談ください。
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