
この記事では、保護者が混同しがちな「通常級(通常の学級)」と「特別支援学級(支援級)」の違いを、制度・授業・人員配置・手続き・最新統計までまとめて解説します。あわせて「通級による指導」という第三の選択肢も紹介します。
目次
1. まず押さえたい「3つの学びの場」の全体像
2. 通常級と支援級、そして「通級」の違いを一枚で
3. 支援級の「中身」——少人数+特別の教育課程+自立活動
4. 「通級による指導」——通常級に籍を置いたまま受けられる特別な支援
5. 人員・学級規模の基準(最新ルールの要点)
6. 誰が支援級の対象?判断の視点
7. 就学相談〜決定の流れ(入学後の見直しも可能)
8. 合理的配慮(reasonable accommodation)の現在地
9. 迷ったときのチェックポイント(実践的な見取り)
10. よくある誤解Q&A
11. 最新動向から見えること(2025)
12. まとめ——「最適な学びの場」は子どもごとに違う
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1. まず押さえたい「3つの学びの場」の全体像
日本の小中学校には、大きく次の三つの学びの場があります。
①通常級:学年ごとの学級で学ぶ一般的な形態。
②特別支援学級(支援級):障害種別ごとに編成された少人数学級。
③通級による指導:在籍は通常級のまま、必要な時間だけ個別・小集団の特別な指導を受ける仕組みです。
制度上の定義や学級規模(支援級は1学級8人が基準)も明確に定められています。
2. 通常級と支援級、そして「通級」の違いを一枚で
| 観点 | 通常級 | 特別支援学級(支援級) | 通級による指導 |
| 在籍先 | 通常級 | 支援級に在籍(校内に設置) | 在籍は通常級、必要時間のみ通級 |
| 学級規模の基準 | 小学校は原則35人学級へ段階的移行(~2025年度) | 8人/学級 | 13人につき教員1人の配置基準(通級担当) |
| 教育課程 | 学年の学習指導要領に沿う | 個に応じた特別の教育課程・自立活動を組む | 学習・行動面の困難に特別な指導を追加 |
| 交流 | ― | 交流及び共同学習(通常級・行事等に参加) | 随時(在籍は通常級のため日常的) |
| 主な対象 | 全児童 | 視覚・聴覚・知的・肢体不自由・病弱/身体虚弱・言語・自閉症/情緒など | LD・ADHD・自閉症など、指導の上乗せが有効な場合 |
基準や語句は、文科省の制度資料とガイドに基づいています。
3. 支援級の「中身」——少人数+特別の教育課程+自立活動
支援級は、障害の状態に応じて少人数で手厚く学べるよう設計されています。カリキュラムは学年一律ではなく、子どもの実態に合わせて教科内容の調整や自立活動(感覚刺激の調整、コミュニケーション手段の学習など)を組み込みます。「自閉症・情緒障害特別支援学級」など障害種別の枠組みも定まっています。
また、支援級在籍でも「交流及び共同学習」として通常級の授業・行事に参加する設計が学習指導要領や専用ガイドで推奨されています。学校ごとに工夫例(音楽・給食・運動・クラブ活動など)が蓄積されています。
4. 「通級による指導」——通常級に籍を置いたまま受けられる特別な支援
通級は在籍は通常級のまま、週数時間など必要な時数だけ別室で個別・小集団の特別指導を受ける仕組みです。LD(学習障害)・ADHD・自閉症などの子どもに、読み書き・行動調整・対人スキル等の具体的スキルトレーニングを提供するのが特徴。制度の概要や対象は文科省の資料で整理されています。 通級利用は近年増加傾向で、令和5年度は全国で203,376人(前年度比+5,033人、在籍全体の1.7%)が受けています。通常級に籍を置いて必要な支援を「上乗せ」する選択肢として定着してきました。
5. 人員・学級規模の基準(最新ルールの要点)
- 通常級の学級規模:法改正により、小学校は40人から35人学級へ段階的に移行(~2025年度)。学習上のきめ細やかさを高める施策の一つです。
- 支援級の規模:1学級8人が基準。通級は児童生徒13人につき教員1人の配置基準が示されています。
6. 誰が支援級の対象?判断の視点
支援級の対象は障害の状態・必要な支援内容・地域の体制などを勘案して決定されます。障害種別は視覚・聴覚・知的・肢体不自由・病弱/身体虚弱・言語・自閉症/情緒等。「どの場が最適か」は就学相談で多角的に検討します(通常級、通級+通常級、支援級の比較検討)。
7. 就学相談〜決定の流れ(入学後の見直しも可能)
就学前から市区町村教育委員会を起点に医療・福祉等の関係者と連携し、通常級/通級/支援級のどれが適切かを客観的・多角的に検討します。入学後、状態の把握や変化を踏まえて学びの場を再検討することも想定され、転学・変更時は保護者や専門家の意見聴取が制度上位置づけられています。
加えて、個別の教育支援計画(長期的な支援の設計図)や個別の指導計画(年度内の目標・方法の計画)を用いて、家庭・学校・関係機関で情報共有しながら支援を継続します。
8. 合理的配慮(reasonable accommodation)の現在地
障害者差別解消法の改正により、2024年4月1日から事業者(私立学校設置者を含む)にも合理的配慮の提供が法的義務となりました。文科省は教育分野の対応指針を示し、試験・授業・学校生活での具体例(別室休憩の設定、段差への簡易スロープ設置など)も周知しています。公立学校は従前から義務でしたが、改正で私立も義務化され、学校全体での対応が一層求められています。
用語ミニ解説:合理的配慮=本人の状況に応じて、過度の負担にならない範囲で、学ぶ権利を実質的に保障するための必要かつ適切な変更・調整のこと(国の定義)。
9. 迷ったときのチェックポイント(実践的な見取り)
- 学習・行動の困難さの強さと頻度:通常級の工夫(座席・掲示・声かけ・ICT・時間配分)で届くか。届きにくい核の課題があるか。
- 集団規模適応:35人規模の教室より8人規模の方が安心・集中できるか。
- スキル学習の必要性:読み書き・実行機能・感覚調整・対人スキル等を体系的にトレーニングしたいか(→通級/支援級が有効)。
- 交流のニーズ:学年集団との交流及び共同学習をどう組むか(支援級でも多くの学校が積極的に実施)。
- 学校・自治体の体制:支援員配置、通級の曜日・頻度、校内の連携体制や経験値を見学・相談で確認。
10. よくある誤解Q&A
Q1. 支援級に入ると、ずっと支援級?
A. 状態やニーズは変化します。入学後の見直し・変更も制度上想定されています。就学相談は一度きりではありません。
Q2. 支援級だと成績や進路で不利?
A. 目標は個に応じた学びの確保です。交流や教科指導の組み方は学校ごとに設計可能で、計画(個別の教育支援計画・指導計画)に基づいて支援します。
Q3. 通常級でも支援は受けられる?
A. 受けられます。通常級に在籍しながら、通級や合理的配慮で必要な支援を上乗せできます。
11. 最新動向から見えること(2025)
- 通級の利用が拡大(R5:203,376人/1.7%)。通常級に籍を置いたまま必要なスキル訓練を行う使い方が定着。
- 通常級は35人学級へ(~2025年度)。一斉指導の密度を上げつつ、個別最適化を図る基盤整備が続いています。
- 合理的配慮の義務化で学校横断の体制強化。手続・対話・モニタリングを含む「仕組み化」が加速しています。
12. まとめ——「最適な学びの場」は子どもごとに違う
- 通常級は学年集団の中で学ぶ基本形。35人学級化で環境改善が進む一方、困難が強い子には届きづらい場面もあります。
- 支援級は少人数(8人)で、課題に即した特別の教育課程と自立活動を組める点が強み。交流も柔軟に設計可能です。
- 通級は通常級に籍を置いたまま必要な支援を足す選択肢。利用拡大の背景には効果の実感と制度整備があります。
- いずれの場合も、就学相談→計画作成→実施→見直しのサイクルと、合理的配慮の対話が鍵。迷ったら、学校見学や体験入級、通級の説明会で実際の場面を確かめましょう。
参考リンク
- 制度・基準・ガイド:文部科学省(特別支援教育、交流及び共同学習、通級の概要、学級規模等)
- 統計:令和5年度「通級による指導実施状況調査」
- 法制度:障害者差別解消法の改正(合理的配慮の義務化)・各府省対応指針
※自治体や学校の運用・人員配置・通級の曜日等は異なります。最終判断は必ずお住まいの教育委員会・学校にご確認ください。