ICD-11/DSM-5-TR で用語と評価軸が整理され、日本でも「合理的配慮の提供」義務化(2024年施行)や法定雇用率の引上げが進行中。教育・就労・地域の各現場では、適応機能評価とテクノロジー(AAC/ICT)を組み合わせた実践が鍵になります。(psychiatry.org)
目次
1. まず「知的発達症」とは?——用語と位置づけの現在地
2. 診断の最新トレンド——「重さ」より「暮らしで何が困るか」
3. 日本の状況と規模感——統計でみるいま
4. 法制度のアップデート——合理的配慮は「努力」から「義務」へ
5. 就労の現在地——法定雇用率、働き方の選択肢、支援の拡充
6. 教育と地域生活——「適応機能評価×具体的支援」で組み立てる
7. テクノロジー最前線——AACとICTの実践例
8. よくある誤解へのファクトチェック
9. 実務者・家族のためのチェックリスト
10. これからの論点——包摂を加速させる3つの視点
参考リンク(本文で触れた主要情報)
まとめ
1. まず「知的発達症」とは?——用語と位置づけの現在地
知的発達症(Intellectual Developmental Disorder: IDD)は、知的機能(推論・問題解決など)と適応機能(概念的・社会的・実用的スキル)に有意な困難があり、発達期に発現して日常生活に影響する状態を指します。DSM-5-TR は診断名を「Intellectual Developmental Disorder(知的発達症)」として整え、IQ値のみに依存しない適応機能重視の評価を明確化しました。(psychiatry.org)
国際疾病分類 ICD-11 でも、神経発達症群の一つとして6A00 知的発達症が整理され、重症度は日常生活での支援の要否・量に基づいてとらえる方向が強まりました。日本の専門誌でも、IQ中心から適応機能中心へという評価の転換が臨床的意義として解説されています。(ICD)
用語メモ
適応機能:読み書きや金銭管理などの概念的スキル、対人関係や社会的判断などの社会的スキル、身の回り・職場スキルなどの実用的スキルの総称。診断と支援計画の心臓部。
2. 診断の最新トレンド——「重さ」より「暮らしで何が困るか」
DSM-5-TR/ICD-11 ともに、重症度=どれだけ支援が必要かという視点に軸足を置きます。これは、教育・就労・生活支援の現場でそのまま使えるという利点があります。つまり、評価結果が支援計画(個別の教育支援計画・個別支援計画、合理的配慮の設計)につながる設計になっているということです。(psychiatry.org)
3. 日本の状況と規模感——統計でみるいま
厚生労働省の調査(令和4年、2024年公表)では、障害者手帳所持者は約610万人で、このうち療育手帳(主に知的障害)所持者は約114万人と推計されています。増加の背景には、認知の広がりや手帳取得の進展が指摘されています。(厚生労働省)
内閣府の資料では、在宅の知的障害者数や年齢構成の特徴(18歳未満の比率が相対的に高い等)が整理されています。発達期に発現するという疾患概念上の性質から、高齢化の直接影響は相対的に小さく、早期からの一貫した支援設計が重要になります。(内閣府ホームページ)
4. 法制度のアップデート——合理的配慮は「努力」から「義務」へ
2024年4月1日から、障害者差別解消法に基づき事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。店舗やWeb、職場などあらゆる接点で、個別の困りごとに応じた柔軟な調整(例:わかりやすい説明、手続き方法の代替、時間配慮など)が求められます。政府の公式周知資料(内閣府/Gov-Online)も、ポイントと具体例を提示しています。(内閣府ホームページ)
用語メモ
合理的配慮:本人のニーズに合わせて過度の負担にならない範囲で行う現実的な環境調整。画一的な「特別扱い」ではなく、対話に基づく個別調整が要です。(内閣府ホームページ)
5. 就労の現在地——法定雇用率、働き方の選択肢、支援の拡充
民間企業の法定雇用率は2025年1月時点で2.5%。2026年7月には2.7%へ引き上げ予定と案内されており、雇用義務の対象企業も広がる見込みです。短時間就労(週10〜20時間)の重度知的障害者等を0.5カウントとして算定できる特例や、雇用相談・助成の強化など実務的な支援も拡充されています。(障がい者雇用・就職支援の株式会社エスプールプラス)
実務ポイント
- 面接・研修はやさしい日本語と手順書・ピクトグラムで可視化。
- 作業分解(タスクアナリシス)と環境調整(静音スペース、視覚的スケジュール)が定着と安全性に直結。
- 産業医・就労移行支援・定着支援との三位一体で離職を予防。
6. 教育と地域生活——「適応機能評価×具体的支援」で組み立てる
特別支援教育や地域生活では、応用行動分析(ABA)、CO-OP(認知的作業手順)、感覚統合理論など既存の手法に、個々の適応機能プロフィールを重ねて支援を設計する流れが主流です。国内学術誌でも、メンタルヘルス支援のアクセシビリティ向上やOT(作業療法)の実践、ICT/AAC導入の整理が相次いでいます。(J-STAGE)
7. テクノロジー最前線——AACとICTの実践例
AAC(拡大代替コミュニケーション)は、絵記号・文字盤・タブレットアプリ・スイッチなど、発話以外の手段を活かす実践です。国内の最新レビューや教育向けリソースでも、アプリ選択の指針、教材カタログ、記号セットが整理され、学校・家庭・職場に跨る導入が加速しています。(saga-u.repo.nii.ac.jp)
すぐ使えるヒント
- 視覚的スケジュール:始業前に一日の見通しを共有。
- タイムタイマー:作業時間を色で可視化。
- Pictogram/やさしい日本語:安全掲示・社内手順・避難案内で誤解を減らす。
8. よくある誤解へのファクトチェック
- 誤解:「IQが低い=重い」
実際:重症度は日常で必要な支援量(適応機能)で評価。IQは参考指標の一つに過ぎません。(psychiatry.org) - 誤解:「支援は学校だけの話」
実際:雇用や接客も対象。合理的配慮の提供は民間事業者にも義務です(2024年施行)。(内閣府ホームページ) - 誤解:「発達期を過ぎると新規に増えない=支援は不要」
実際:成人期のライフイベント(就職・独立・余暇)で新たな支援設計が不可欠です。国内統計でも在宅知的障害者の年齢構成と支援需要が示されています。(内閣府ホームページ)
9. 実務者・家族のためのチェックリスト
- 評価:適応機能(概念・社会・実用)を場面別に把握。
- 目標:職務・学習・生活の具体目標(例:金銭管理、通勤、挨拶)。
- 手段:合理的配慮(説明方法の変更、手続きの代替)+AAC/ICT。
- 仕組み:見える化(手順書・ピクト・チェックリスト)、振り返り(週次レビュー)。
- 連携:学校/福祉/医療/企業の情報共有。雇用相談・助成制度を活用。(厚生労働省)
10. これからの論点——包摂を加速させる3つの視点
- 評価から処方へ:ICD-11/DSM-5-TR の適応機能重視は、支援メニューの具体化に直結。評価票を教育計画・就労定着計画へブリッジする運用が要。(psychiatry.org)
- 制度と実装のギャップ縮小:合理的配慮の義務化は追い風。企業・店舗側に手順雛形・研修教材を普及し、小規模事業者でも回せる仕組みを。(内閣府ホームページ)
- テクノロジーの民主化:AAC/ICTはコスパの高い投資。オープン教材・無料アプリのカタログ化と、現場の伴走支援で定着率を上げる。(特別支援教育と支援技術)
参考リンク(本文で触れた主要情報)
- DSM-5-TR における知的発達症の整理(APA):診断と適応機能の位置づけ。(psychiatry.org)
- ICD-11(WHO/厚労省資料):6A00 知的発達症の分類と実務上の扱い。(ICD)
- 合理的配慮(内閣府・Gov-Online):2024年施行のポイントと具体例。(内閣府ホームページ)
- 就労(法定雇用率・支援策):率の引上げ見通し、短時間算定、助成・相談体制。(障がい者雇用・就職支援の株式会社エスプールプラス)
- 教育・AAC/ICT:レビュー論文・実践リソース。(J-STAGE)
まとめ
知的発達症をめぐる潮流は、「IQの数値」から「暮らしでどう支えるか」への転換です。日本でも合理的配慮の義務化(2024年)、雇用率の引上げ(2025→2026年)と制度が動き、現場では適応機能評価×AAC/ICTが実装フェーズに入りました。評価→支援→振り返りのサイクルを、教育・就労・地域でつなげることが、当事者の自己決定を支える最短ルートです。(内閣府ホームページ)
本記事は2025年10月3日時点の公開情報をもとに作成しました。法制度や支援施策は更新されるため、最新情報は各公的機関の原資料をご確認ください。
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